COVID-19の症状の中で、「ブレインフォグ」と呼ばれる症状が深刻だ。頭痛、集中力の低下、記憶力の衰えといった症状が報告されている。新たな研究によれば、SARS-CoV-2は脳細胞を融合させることでその通信を妨げる可能性がある。この研究は試験管内の細胞だけで行われたが、このパンデミックの最も混乱させる症状の一つを説明する手助けとなると一部の科学者は語る。
「これは重要な第一歩だ」と、この研究に関与していないドイツ神経変性疾患センターの生化学者ステファン・リヒトンターラーは語った。
研究者たちはすでに、SARS-CoV-2が特定の細胞を融合させることを知っていた。重症COVID-19で死亡した患者の肺は、しばしば「シンシチウム」と呼ばれる大きな多細胞構造で満たされている。科学者たちはこれが呼吸器症状の原因となっていると考えている。他のウイルスと同様、SARS-CoV-2は新しい細胞を感染させることなく、臓器全体に広がるために細胞を融合させる可能性がある。
クイーンズランド大学の神経科学者マッシモ・ヒリアードとその同僚たちは、マウスのニューロンを二つに分けて遺伝子操作した。一方は赤色の蛍光分子を発現し、他方は緑色の蛍光分子を発現する。二つが試験管内で融合した場合、顕微鏡下では鮮やかな黄色に見えるはずだ。SARS-CoV-2を両方の細胞を含む試験管に加えると、研究者たちはそのような現象を観察したとScience Advancesに報告している。同様の融合は、幹細胞から作られる「ミニブレイン」とも呼ばれるヒト脳オーガノイドでも発生した。
重要なのは、SARS-CoV-2が標的とすることが知られている哺乳類細胞の表面に発現する酵素であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)のようだ。ウイルスは表面タンパク質であるスパイクを使ってACE2に結合し、ウイルスが細胞と融合し、その内部に遺伝物質を放出することを引き起こす。感染細胞内のスパイクタンパク質が、隣接する細胞との融合を引き起こす他のACE2を作り出す可能性がある。チームがニューロンをスパイクタンパク質を発現するように操作したところ、ACE2を発現する細胞だけが融合できた。この結果は肺細胞における以前の研究と並行している。ACE2受容体は、SARS-CoV-2感染中に細胞の融合を調節する重要な役割を果たしているようだ。
しかし、試験管やオーガノイドで観察されたニューロンのシンシチウムは、肺で見られたものとは異なる特性を示した。肺細胞が融合したとき、細胞体の主要部分だけが接続された。一方、ニューロンでは、細胞体から遠く、デンドライトやアクソンと呼ばれる細長い突起で融合が発生した。これらは細胞間の通信に不可欠だ。
この融合は通信を混乱させるようだった。ニューロンは通常、独立して発火し、脳全体に信号を伝播する。しかし、融合したニューロンの90%が同時に発火し、残りの10%は沈黙した。ヒリアードは、この大量の同期活動は「まるで発作のようだ」と語る。ブレインフォグはこの微妙な通信が混乱する結果となる可能性があると彼は語る。
これらの結果がSARS-CoV-2に感染した動物やヒトの脳で確認されるかどうかはまだ見ぬ問題だと、パスツール研究所のウイルス学者オリビエ・シュワルツは語る。彼と他の研究者は、まだ誰も実際にCOVID-19の死者のニューロンのシンシチウムを探していないと言う。しかし、彼はこの研究が理にかなっており、さらに探求する価値があると述べる。また、SARS-CoV-2よりも多くのニューロンを感染させる他のウイルス、例えば狂犬病ウイルスにとって、ニューロンの融合はより関連性があるかもしれないと彼は指摘する。これらの発見は、狂犬病が脳に混乱を引き起こす別の理由を提供するかもしれないと、シュワルツは述べる。
「ニューロンの融合は広範囲にわたって起こっていると思う」と、ヒリアードは同意する。「それはまだ見えていないだけだ」と彼は語る。「それは本当に私たちの目の前にあると思う」