- Silva, S., Goosby, E. and Reid, M. (2023) “Assessing the impact of one million COVID-19 deaths in America: economic and life expectancy losses”, Scientific Reports, 13(1). doi: 10.1038/s41598-023-30077-1. https://www.nature.com/articles/s41598-023-30077-1
背景
COVID-19のパンデミックは、米国で深刻な死者を出し、2022年5月12日までに100万人以上の死者を出している。これらの死は、社会の混乱、個人の悲劇、経済的損失を引き起こしている。さらに、これらの損失は、社会経済的不公平を考慮すると、均等に分配されていない可能性がある。
研究内容と結果
本研究では、100万人のCOVID-19関連死亡が米国の平均寿命と経済厚生に与える影響を推定した。米国の国民生命表を用い、COVID-19を原因として除外して、出生時と35歳の平均余命を計算した。次に、3つのステップで経済的損失を求めた。
まず、国民所得成長率への影響を試算した。次に、統計的生命価値(VSL)を、米国保健社会福祉省(HHS)が推奨する定数値と2000年の年齢別VSL値を使って推定した。第三に、年齢別VSL年(VSLY)を用いて、過剰死亡リスクを評価した。
死亡の大部分は非ヒスパニック系白人集団(64.5%)で発生し、次いでヒスパニック系(16.1%)、非ヒスパニック系黒人(14.3%)、アジア系(3.1%)であった。しかし、2020-21年の年齢調整死亡率はヒスパニック系が最も高い。非ヒスパニック系白人の死亡のほとんどは、85歳以上の高齢者で発生している。一方、ヒスパニック系住民では65~74歳の年齢層で最も多くの死亡が見られた。
これらの死亡は、出生時の平均余命の3.08年短縮と35歳時の平均余命の3.02年短縮をもたらした。平均余命の短縮はヒスパニック系で最も高く、次いで非ヒスパニック系の黒人およびアジア系であった。これらの死亡は、合計で約3兆5700億ドルの経済的損失を引き起こした。この経済的損失のうち約2兆2千億ドルは、ヒスパニック系以外の白人の死亡によるものである。
ヒスパニック系の死亡による損失は6942億ドル、非ヒスパニック系の黒人の死亡による損失は5799億3千万ドルであった。HHSが推奨するVSLを使用した場合、損失額は9兆8200億ドルと推定され、非ヒスパニック系白人の死亡が63%を占めている。
しかし、年齢別のVSLを使用した場合の損失額は4兆8500億ドルであり、非ヒスパニック系白人の死亡が58.6%を占めた。VSLYで評価すると4.38兆ドルの損失となった。前述と同様、非ヒスパニック系白人人口が損失の65.82%を占めた。
結論
今回の調査結果は、1918年のインフルエンザ・パンデミック以来、前例のない余命の喪失を明らかにした。2020年2月から2022年5月までの100万人のCOVID-19関連の死亡は、出生時で3.08年、35歳で3.02年、65歳で2.07年平均余命を減少させるものであった。これらの損失は、過去40年間に得られた利益を事実上取り消してしまう。
失われた命の価値と国民所得増加への影響に関する経済的損失は約3兆5700億ドルであった。注目すべきは、長期障害や罹患による損失が考慮されていないため、この削減額はもっと大きい可能性があることである。さらに、損失は人種によって偏在していた。
例えば、経済的損失はヒスパニック系住民の人口に比例するが、非ヒスパニック系黒人の人口貢献より30%大きい。全体として、この結果は、COVID-19の過剰死亡による著しい経済的損失が、ヒスパニック系と黒人に不釣り合いに影響を与えること、そして将来的に経済的ショックを予防・吸収するために健康に投資する必要性を強調している。