LongCOVIDにおける抗体酵素のメカニズム

バージニア大学健康システムの研究者たちは、COVID-19とその長期的な後遺症であるLongCOVIDの謎を解明する手がかりとなる可能性のある発見をした。この研究結果は、COVID-19の急性症状やLongCOVID、さらには他のウイルス感染症に対する新たな治療法の開発につながるかもしれない。

研究チームは、Steven L. Zeichner 医師 (PhD) をリーダーとし、COVID-19に感染した一部の人々の体内で、抗体酵素のように働く抗体が生成されることを明らかにした。抗体酵素は、血圧などの重要な機能を調節するために体内で自然に働いており、今回発見された抗体 (抗体酵素) は、本来の抗体酵素と似たような働きをする。

医師たちは、この抗体酵素を標的とすることで、望ましくない影響を止めることができるかもしれない。もし抗体酵素の異常な活動がLongCOVIDの一部症状の原因でもあるなら、これまで対症療法だった治療法とは異なり、根本原因である抗体酵素を標的とすることで、COVID-19やLongCOVIDの難しい症状を治療することができるようになる可能性がある。

COVID-19抗体酵素の理解

COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は、スパイクタンパクと呼ばれるタンパク質を表面にもっている。ウイルスが細胞に感染しようとすると、スパイクタンパクはACE2と呼ばれる別のタンパク質と結合する。ACE2は通常、血圧を調節する働きを持っており、アンジオテンシンIIというタンパク質を切断して、アンジオテンシン1-7という別のタンパク質を作り出す。アンジオテンシンIIは血管を収縮させて血圧を上げる一方、アンジオテンシン1-7は血管を拡張させて血圧を下げる。

Zeichner氏らの研究チームは、一部の患者がスパイクタンパク質に対する抗体を生成し、その抗体がACE2と似ているため、抗体酵素活性を持ちうるのではないかと考えた。そして、実際にそのような抗体を確認した。

近年の他の研究グループによれば、LongCOVID患者の中には凝固系や補体系と呼ばれる系に問題を抱えている者がいるという。凝固系と補体系はどちらも、他のタンパク質を切断して活性化させる抗体酵素によって制御されている。もしLongCOVID患者が、凝固や炎症などのプロセスを制御するタンパク質を活性化させる抗体酵素を産生しているとすれば、それはLongCOVIDの症状の一部がなぜ持続するのか、そしてなぜ回復後も症状が現れるのかを説明できるかもしれない。COVID-19ワクチンのまれな副作用についても説明がつく可能性がある。

Zeichner氏らは、COVID-19患者における抗体が予想外の効果をもたらしているかどうかを調べるため、中等症または重症のCOVID-19患者67人に入院7日目頃に採取した血漿サンプルを調べた。そして、パンデミック発生前の2018年に採取された血漿と比較を行った。その結果、一部のCOVID-19患者は抗体酵素様抗体を持っていることが判明した。

COVID-19における抗体酵素の潜在的な役割はまだ初期段階の研究ではあるものの、Zeichner氏はHIVでも特定のケースで抗体酵素様抗体が検出されていると指摘する。つまり、ウイルスが抗体酵素の形成を引き起こすことはあり得ることであり、他のウイルスでも同様の効果を引き起こす可能性があることを示唆している。

現在、汎用コロナワクチンを開発中のZeichner氏は、今回の発見により、医学研究における抗体酵素に対する関心が再び高まることを期待している。また、この発見が急性COVID-19とLongCOVIDの両方を持つ患者のためのより良い治療法の開発につながることも望んでいる。

「今後さらなる研究が必要ですが、世界中で苦しみと死をもたらしてきたこの難しい病気に対する理解を深めるための第一歩を踏み出したと考えています。効果的な治療法を開発するための第一歩は、病気を引き起こす根本原因をしっかりと理解することです。そして、私たちはその第一歩を踏み出したのです。」

  • Song Y, Myers R, Mehl F, et al. ACE-2-like enzymatic activity is associated with immunoglobulin in COVID-19 patients. Archin NM, ed. mBio. 2024:e00541-24. doi: 10.1128/mbio.00541-24