- Takeda, R., et al. (2022) Antiviral effect of cetylpyridinium chloride in mouthwash on SARS‐CoV‐2. Scientific Reports. doi.org/10.1038/s41598-022-18367-6.
COVID-19の原因ウイルスであるSARS–CoV-2は、エアロゾルを介して口腔内や鼻腔から感染する空気感染症です。SARS–CoV-2は、気道の細胞でウイルスが分裂して広がることはよく知られているが、口の中の粘膜の細胞や唾液腺にも感染することが知られている。
北海道大学大学院の肥田京子教授らの研究チームは、一部の洗口液の成分である低濃度の塩化セチルピリジニウムが、SARS–CoV-2に抗ウイルス効果を示すことを明らかにしました。この研究成果は、学術誌「Scientific Reports」に掲載さ れた。
市販の洗口液には、口腔内の微生物に作用する抗生物質や抗ウイルス剤の成分が多く含まれている。そのうちの1つである塩化セチルピリジニウム(CPC)は、主にウイルスを包む脂質膜を破壊することにより、口腔内のSARS–CoV-2のウイルス量を減少させることが示されている。同様の効果を持つ化学物質は他にもあるが、CPCは無味無臭であるという利点がある。
研究者らは、日本のマウスウォッシュにおけるCPCの効果を調べることに興味を持った。日本の洗口液は、以前にテストされた洗口液に比べて、CPCがほんの少ししか含まれていないのが普通である。彼らは、SARS–CoV-2の細胞内への侵入に必要な膜貫通型プロテアーゼ・セリン2(TMPRSS2)を発現している細胞培養物にCPCの影響をテストした。
その結果、塗布後10分以内に30~50μg/mLのCPCがSARS–CoV-2の感染性と細胞侵入能を阻害することがわかった。興味深いことに、CPCを含む市販の洗口液は、CPC単独よりも優れた効果を示した。また、唾液がCPCの効果を変化させないことも示された。さらに、SARS–CoV-2のオリジナル、アルファ、ベータ、ガンマの4つの変異体をテストしたところ、CPCの効果はどの変異体でも同様であることが示された。
本研究は、市販の洗口剤に含まれる低濃度のCPCが、4種類のSARS–CoV-2の感染力を抑制することを示している。著者らはすでに、COVID-19患者の唾液中のウイルス量に対するCPC含有マウスウォッシュの効果の評価を開始している。また、低濃度のCPCは脂質膜を破壊しないので、効果のメカニズムを完全に理解することが今後の課題である。