イギリス経済は深刻な状況にあり、悪化の一途を辿っている。先週発表された大量の経済データが示すのは、長期療養による労働不能者の増加がイギリス経済の足を引っ張っているという明白なメッセージだ。
長期療養者の増加傾向が悪化している理由には、コロナ後遺症、NHSの治療遅延による待ち時間の長期化、劣悪な職場環境、ストレス、緊縮財政の影響など様々な説が唱えられている。
しかし、確かなのは一つある。国民の健康状態悪化がもたらす経済的影響は、現財務大臣であるジェレミー・ハントにとって頭痛の種だ。レイチェル・リーブスが初の女性財務大臣となっても、この問題は解決しなければならないだろう。人材不足に悩む全ての企業にとっても、これは深刻な問題だ。
先週、国家統計局が発表した数字は、この問題の深刻さを浮き彫りにしている。長期療養を理由に非活動状態にあると回答した人数は現在280万人で、過去1年間で20万人以上、2020年のパンデミック開始以来では70万人以上も増加している。
これは深刻な問題であり、状況が違えば働いていたであろう人々だけではなく、イギリスの労働力がパンデミック前の水準を70万人下回っていること、労働市場が逼迫していること、そして経済が停滞していることの説明にもなる。
イギリス商工会議所の上級政策責任者であるジェーン・グラットン氏は、「企業は高まる非活動率とそれに伴う経済的影響を深刻に懸念している。これは経済成長とインフレに影響を与えている。人材不足による賃金上昇が起きており、雇用者と個人双方に影響が及んでいる」と述べた。
これは目新しい問題ではない。1980年代から90年代の産業衰退に伴う工場や炭鉱閉鎖によって、多くの労働者が退職を余儀なくされた。21世紀に入ってからも、イギリスはドイツ、フランス、イタリアに比べて、健康上の理由で非活動状態にある人の割合が高かった。しかし、コロナとNHSの待ちリストの長期化という2つの新しい要素が近年この問題をさらに悪化させている。
さらに経済政策立案者にとって特に懸念なのは、イギリスがG7の中で非活動率が最も低かった国から、唯一、パンデミック前の水準まで労働力が回復していない国になったことだ。
予算責任局は次のように指摘している。「国際的なエビデンスによれば、イギリスは就業可能年齢層の労働参加率に関して国際的に一貫して好調な成績を収めてきたが、パンデミック後の非活動率の上昇は際立っている。また、イギリスでは他の中所得国と比べて、健康状態が悪化することが一貫して非活動率の大きな要因となっており、パンデミック後の傾向はこの違いをさらに拡大させた可能性がある」
イギリスを「ヨーロッパの病人」と呼ぶのは言葉遊びとしては魅力的かもしれないが、正確な表現ではない。フェミニストシンクタンクである女性予算グループ (WBG) は、健康上の理由で非活動状態にある女性の方が男性よりも20万人多い (150万人 vs 130万人) と指摘している。WBG はこれはコロナの影響だけでなく、パンデミック以前から顕在化していた傾向の継続であるとしている。
WBG の副ディレクターであるズバイダ・ハーク氏は、女性の方が低賃金の仕事に就く可能性が高く、緊縮財政の影響をより強く受けていると述べた。「これは突然起きたことではない。女性はパンデミックによって不均衡な打撃を受けただけでなく、2010年から2020年に行われた給付金の削減の影響もより深刻に受けた。政府が問題の症状だけに対処しようとしても、それでは不十分だ」
レゾリューション財団シンクタンクの上級エコノミストであるハンナ・スローター氏は、長期療養による非活動状態にある280万人は深刻な懸念事項であると述べた。「これは経済を停滞させ、公的財政とNHSに圧力をかけ、多くの人々の機会を制限している。この傾向を逆転させることは、現政権と次期政権にとって優先事項になるだろう」
雇用・年金省によると、政府は既に問題解決に取り組んでいるという。広報担当者は次のように述べた。「2010年以降、400万人が新規就業者となったが、さらなる取り組みを進めている。福祉改革により、本来なら最高レベルの障害者手当の対象となるはずだった人々の数を37万人以上削減することが見込まれる」