新型コロナウイルス感染と長期的な味覚・嗅覚障害

新型コロナウイルスのワクチン開発や世界的な大規模接種により、パンデミックは沈静化しつつある。しかし、後遺症として長引く倦怠感、息切れなどの症状がみられる「新型コロナ後遺症 (post-COVID-19 condition: PCC)」が公衆衛生上の懸念となっている。アメリカでは、1千万人から3千5百万人の成人がPCCに悩まされていると推定される。

PCCの症状は多岐にわたるが、味覚・嗅覚障害もその一つとして知られる。ただ、味覚・嗅覚障害の長期的な影響を調べた研究は少なく、また自己申告による報告は不正確な可能性がある。

本研究では、全国規模のデータと客観的な味覚検査を用いて、新型コロナウイルス感染後1年経過した時点での味覚・嗅覚障害の有無を調べた。また、嗅覚検査とも比較を行い、新型コロナウイルスが味覚 (酸味、甘味、塩味、苦味、うま味) の感受性に与える影響を評価した。さらに、これらの結果と性別・年齢、感染したウイルス株との関連も調べた。

参加者は48州の全米各地から無作為に選ばれ、新型コロナウイルスの既感染歴は問われなかった。味覚検査には「水を使わない味覚検査」が用いられ、53種類の味覚刺激を、すすぐことなく連続して味わってもらった。嗅覚検査は40種類のにおいを嗅ぎ分けるもので、選択式の問題形式だった。

その結果、味覚障害は新型コロナウイルス感染1年後にまで残らないことが明らかになった。一方、嗅覚障害については、被験者の3分の1が1年以上経ってもにおいが感じにくかった。これが、多くのPCC患者が味覚障害を訴える一因と考えられる。

嗅覚障害の程度は、感染した新型コロナウイルスの株によって異なり、1年近く経ってもその違いは持続した。オミクロン株は他の株よりも嗅覚障害を起こしにくく、アルファ株が最も嗅覚障害を引き起こしやすかった。

年齢が高くなるほど検査成績は低下する傾向にあったが、年齢と新型コロナウイルス感染による嗅覚・味覚障害との関連性は認められなかった。また、味覚検査全体と、クエン酸、ショ糖、塩化ナトリウム、カフェインといった個々の項目において、女性のほうが成績が高かった。

以上の結果から、味覚障害は新型コロナウイルス感染後1年以上は持続しないが、嗅覚障害については3分の1の患者が1年以上持続することが示唆された。また、初期のウイルス株 (本来株、アルファ株、デルタ株) よりもオミクロン株は嗅覚・味覚障害を起こしにくいことがわかった。