- Qu, P., Xu, K., Faraone, J. N., et al. (2023). Immune Evasion, Infectivity, and Fusogenicity of SARS-CoV-2 Omicron BA.2.86 and FLip Variants. bioRxiv. doi:10.1101/2023.09.11.557206
bioRxivのプレプリントサーバーに掲載された研究で、研究者らは新しいSARS-CoV-2の変異体BA.2.86とFLipに対するワクチンの中和能力を評価した。この研究では、3回ワクチン接種を受けた医療従事者とXBB.1.5亜種に感染した人の血清が使用された。
背景
SARS-CoV-2、特にオミクロン変異体および亜変異体の絶え間ない進化は、ワクチン開発に難題を突きつけている。これらの亜型はスパイクタンパク質の受容体結合ドメインに変異があり、既存のワクチンによる中和抗体から逃れることができる。さらに、オミクロン系統の亜型は、伝播性は高いが病原性は低い。XBB系統の亜種のように、ブースター投与によって部分的にしか中和されない亜種もあり、これらの亜種や新たに出現したBA.2.86に対するワクチンの有効性が懸念されている。
研究の概要
研究者らは、ワクチン接種を受けた医療従事者の血清サンプルを用いて、BA.2.86やFLipを含むいくつかの変異型に対する中和抗体レベルを評価した。また、特定の変異体に対して以前から有効であったモノクローナル抗体S309の、これらの新しい変異体に対する有効性も検証した。この研究では、ACE-2受容体を発現するヒト胚性腎臓細胞株(HEK293T)とヒト肺腺がん細胞をさまざまなアッセイに用いた。
結果
BA.2.86変異体は、XBB変異体やFLipよりも免疫回避が少なかった。しかし、モノクローナル抗体S309は特異的変異(D339H)によりBA.2.86を中和できなかった。BA.2.86変異体は細胞の種類によって異なる感染性を示した。構造的には、BA.2.86は最近のXBB変異体よりも初期のOmicron変異体に類似している。XBB.1.5抗原を含むModerna mRNAワクチンを接種した人の血清は、BA.2.86およびFLipに対して強い免疫応答を示した。
結論
新しいBA.2.86変異体の免疫回避能力は最近の変異体ほど強くなく、その感染力は細胞タイプによって異なる。今回の所見から、既存のワクチンでもBA.2.86とFLipに対する強固な防御が可能であることが示唆されたが、特にBA.2.86の肺組織に対する親和性については、さらなる研究が必要である。