- Dubey, S., Das, S., Ghosh, R., Dubey, M. J., Chakraborty, A. P., Roy, D., Das, G., Dutta, A., Santra, A., Sengupta, S., & Benito-León, J. (2023). The effects of SARS-CoV-2 infection on the cognitive functioning of patients with pre-existing dementia. Journal of Alzheimer’s Disease Reports, 7(1), 119–128. https://doi.org/10.3233/ADR-220090
概要
この研究は、新型コロナウイルス (COVID-19) が既存の認知症患者に与える脳への影響を調べたものである。
従来の研究と今回の違い
従来の研究では、COVID-19による「ブレインフォグ」と呼ばれる、思考や集中力の低下、記憶障害などの長期的な症状が、健康だった人が感染後に経験することがわかっていました。しかし、認知症患者への影響についてはあまり知られていない。
今回の研究方法
今回、アメリカ国立神経疾患・脳卒中研究所 (NINDS) の支援を受けて行われた研究では、認知症の進行状況を継続的に観察していた14人の患者を対象とした。この14人は全員、研究中に COVID-19 に感染した。
認知症の種類は、アルツハイマー病が4人、血管性認知症が5人、パーキンソン病に伴う認知症が3人、前頭側頭型認知症の一種である行動変異型が2人である。
研究では、14人の患者について、COVID-19 発症前3カ月以内と感染後1年目での脳の画像検査と認知機能検査を実施し、比較を行った。
研究結果
・COVID-19 感染後1年を経過した時点で、全員に疲労感や抑うつ状態の悪化、注意機能や記憶力、言語機能、空間認識能力、実行機能の低下が見られた。 ・脳画像検査では、全員で脳萎縮 (ニューロンやニューロン間の接続の消失) と、脳白質の深部にある病変が認められた。 ・認知症の種類は違っていたが、COVID-19 感染後に全員が似たような悪化症状を示した点も注目すべき発見である。 ・以上の結果から、研究者たちは COVID-19 が認知症患者の脳に急速な構造的および機能的な悪化をもたらすことを明らかにした。また、このような特徴的な脳の変化に基づき、COVID-19 感染に伴う認知症の合併症を指す新しい用語「FADE-IN MEMORY」を提唱している (FADE-IN MEMORY は、Fatigue 疲労、decreased Fluency 流暢性の低下、Attention deficit 注意欠陥、Depression 抑うつ、Executive dysfunction 高次機能障害、slowed INformation processing speed 情報処理速度の低下、subcortical MEMORY impairment 皮質下記憶障害の頭文字をつなぎ合わせたものである)。
研究の意義
今回の研究は、COVID-19 が認知症患者に深刻な神経学的合併症を引き起こす可能性を示唆している。また、COVID-19 はあらゆるタイプの認知症の進行を加速させるおそれがあることも明らかになった。
今後は、なぜ COVID-19 が認知症患者の脳の悪化を加速させるのか、そのメカニズム解明が求められる。さらに、COVID-19 に感染した認知症患者の進行を遅らせる治療法の開発にもつながる可能性が期待される。