- Hampshire, A., Azor, A., Atchison, C., Trender, W., Hellyer, P. J., Giunchiglia, V., Husain, M., Cooke, G. S., Cooper, E., Lound, A., Donnelly, C. A., Chadeau-Hyam, M., Ward, H., & Elliott, P. (2024). Cognition and Memory after Covid-19 in a Large Community Sample. New England Journal of Medicine, 390(9), 806–818. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2311330
新型コロナ後遺症と認知機能に関する大規模調査
新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) 感染症の後遺症として、認知機能の低下が指摘されているが、客観的に測定可能な認知機能障害があるかどうか、またその持続期間がどれくらいなのかはよくわかっていなかった。
今回、イギリスで行われた大規模な調査では、80万人以上の成人を対象にオンラインでの認知機能評価が行われた。この評価では、8つのタスクを通して総合的な認知機能スコアが算出された。
研究では、発症後12週間以上続く「持続症状」のある感染者グループは、客観的に測定可能な認知機能の低下が見られるのではないか、また特に「脳霧」と呼ばれる記憶障害や集中力の低下を最近経験している参加者において、実行機能や記憶の障害が顕著ではないかと考えられていた。
調査には14万人を超える成人が参加し、オンライン評価を完了したのは約11万3千人であった。解析の結果、発症後4週間以内に症状が回復した感染者グループと、少なくとも12週間症状が続いた感染者グループは、新型コロナウイルスに感染していない (あるいは感染が確認できない) グループと比較して、どちらも軽度の認知機能低下がみられた。一方、症状が回復していない持続症状のあるグループでは、より顕著な認知機能低下が見られた。
また、調査では、感染時期によって認知機能への影響が異なっており、初期のウイルス株や B.1.1.7 変異株が流行していた時期に感染したグループの方が、後の変異株 (例えば B.1.1.529 変異株) に感染したグループよりも認知機能の低下が大きかったことがわかった。さらに、入院が必要になったグループの方が、入院をせずに自宅療養で回復したグループよりも認知機能の低下が大きかったことも示された。
解析結果は、参加者の傾向を揃えるなどして偏りを補正する方法を用いた解析結果と同様であった。
「持続症状」のあるグループと、新型コロナウイルスに感染していないグループを比較すると、記憶、思考、判断などのタスクで最も大きな認知機能低下がみられた (0.33~0.20 SD)。ただし、最近の症状 (記憶障害や脳霧) との関連性は弱くみられた。
今回の研究結果は、症状が回復した感染者でも新型コロナウイルス感染後に軽度の認知機能低下がみられるものの、持続症状のある感染者ではより顕著な認知機能低下が認められたことを示している。ただ、認知機能低下の長期的な持続や、それが臨床的にどのような影響を与えるのかについては、さらなる研究が必要である。